私設スカラシップも5年目を迎えました

 2024年度の採択者が決定いたしました。詳細は、以下よりご確認いただけます。

2024年度採択プログラム


  2024年は、震災で幕を開けた。東日本大震災から10年あまり。震災の余波も記憶も残る中、日本列島は次の災害支援を実行した。

 「コロナ明け」というのは、まだ明確に目に見えているわけではないが、今年の災害援助だけではなく、コロナの五類移行、コロナ支援金の打ち切り、燃料代の高騰、物価・地価の高騰などによって、生活と密に関わる部分に変化が多くみられたように思う。「自分で何とかしなければならない」「落ちこぼれたら這い上がってこれない」「政府からの支援は期待できない」というような、ただただ右肩下がりに、得られるものはなく、失っていくだけの2024年が始まったようにさえ感じられる。社会保険料は上がる一方で、可処分所得に賃上げの効果が現れず、円安政策の印象から、日本はほとんど東南アジア諸国と同じような物価感覚・賃金感覚になっているようにさえ感じられる(一部の労働者にとってはそうだろう)。GDPこそまだ第四位と高い地位を占めているが、ゆっくりと経済的地位を下げていくのだろうというムードが蔓延している。

 芸術文化支援はどうだろう。コロナ禍において登場した優れた支援制度の多くは消え去り、東京や札幌など一部地域をのぞけば、これまで通りに戻ってしまった感がある。つまり、2分の1助成という「悪しき」体制に戻ったのである。何も助成に頼らずとも民間の力で舞台芸術は存続すれば良いという声もあるだろうが、助成金制度との並存によってチケット代は極めて高価になり、舞台芸術の大多数の観客は、平日に出歩けるだけの時間と、一回に一万円のチケットを購買力のある層に限られている。似たようなことは、担い手にもいえる。演劇と言えば、苦学生が演劇クラブで実演をしているという印象が、私のような世代にはあるが、もはや実態は実家に余裕があるかリベラルな思想を持ち、都心部に生まれ育った、比較的経済的に豊かな層が担っているというのが実情ではないだろうか。もはや、クラシック音楽やスポーツのようにお金も時間もかかる趣味になっていると言えるだろう。

 一方で、コロナ明け以降、演劇に対するハードルが低くなったとも聞くところである。漫画やアニメにも、舞台芸術が描かれるようになり「他者を演じる」ということに対する、「アンダーグラウンド感」「サブカルチャー感」はなくなり、ユーチューバーやアイドルのような「メジャー感」が現れているように思う。もしまだ「日本では演劇が公教育に取り入れられておらず、先進国に遅れている」という人がいれば、それは認識を改める時期に来ているだろう。先人の努力によって、ドラマ教育は公教育に取り入れられるようになり、演劇を見る/演じるということは、珍しいことではなくなっている。むしろ、「華やか」で「メジャー」なものであると言うべきだろう。

 また舞台芸術に従事する実演家・技術者・職員らの待遇について、(改善は常に必要ではあるが)実務にあたっていらっしゃる方々によって、職業として成立するような改善が日々積み上げられている。文化だけが待遇が低いわけではなく、医療・介護・教育など、公金を利用する多くの職業において、同様の改善が必要である。

 こうした議論は、「コロナ明けの災害支援」という点に象徴されているように感じられてならない。自助努力だけでは切り抜けられない問題があるのだから、地域や集団が問題を共有し、助け合う必要がある。そして行政や国は、こうした支援ネットワークを円滑にすることができるようなシステム・仕組みを整えるべきではないだろうか。隣人愛はどんな支援にも必要な人情であり、それを搾取しない/させないためのゆるぎない公平性なくして、人情は長続きしない。

 私設スカラシップは、これまでの支援の枠組みと実情を鑑みて、今できることから、必要な支援をしていきたいと思っています。どうぞ皆様のご支援を賜れますと幸いです。


BARACKE横田宇雄(2024年4月11日)モロッコ王国ラバト市より


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