2024年度採択プログラム

2024年度上演芸術研究のための私設スカラシップは、以下の通り採択されました。

・採択者:寺田 凜(アートマネージャー)
・活動テーマ「“アジア舞台芸術”の創造環境」
・使途:国内外での観劇費用、旅費

<採択理由>
 創造環境をヨーロッパモデルではなく、アジアにルーツを見つけようとする試みに対して。渡航費用の援助として。
 採択者の実務実績と経験年数、緊急性を考慮し、妥当であると判断されたため。

<採択者からのコメント>
 「舞台芸術といえば欧米だろう」と憧れを抱いた学生時代の私は、ニューヨークやロンドンに留学した。留学先で初めて人種や文化、言語の面でマイノリティになった私は、自分の“アジア人”としてのアイデンティティを強く意識するようになる。帰国後、中国やマレーシアなどアジア各地から招聘された作品や、それまで縁遠かった日本の伝統芸能にも惹かれるようになったが、それは自分がそれまで無意識に持っていたスタンダードが揺さぶられ、新しい視座や価値観を獲得しようとしていた(している)からかもしれない。そのようにして私は“アジア舞台芸術”と出会った。

 その後、海外のアーティストを日本国内で受け入れる側として何年か働く中で、「最近"アウェー"な環境に身を曝していないな」と、ふと危機感のようなものを感じ、国外に出る機会、受け入れられる側になる機会を探すようになった。そして今年、幸運にも、アジア各地のプロデューサー、制作者のネットワークづくりのためのプラットフォーム「Asian Producers' Platform (APP) Camp 2024」へ参加する機会を得た。今回の開催地はマレーシアで、丸一週間を使ってクアラルンプールとペナンにおける創造環境を視察すると同時に、他参加者との共同リサーチやディスカッションに取り組む予定である。本スカラシップは、このプログラムへの参加費や渡航費に充てさせていただく。

 アジアのアーティストと協働する中で、植民地主義について話題にならない年はない。しかし、自分たちを名指すための“アジア”という概念すら、元々はヨーロッパから“他者”として規定された存在というのは、なんとも言えない矛盾感がある。そもそも、こんなに多様な地域を“アジア”で括って良いのかという疑問もある。一方で、同じラベルがあるからこそ連帯できるという考え方もある。同じ“アジア”の別地域の舞台芸術の創造環境を知り、同じ“アジア”を拠点とする同業者と意見を交わすことを通し、身の周りの創造環境を見つめ直すと同時に、「“アジア舞台芸術”の創造環境」の行く先を探りたい。

<実行委員からのコメント>
 ありがたいことに、地道に活動を続け、毎年10人ほどの方からの立候補・推薦をいただいています。この活動はあくまで個人が個人を支援するプログラムで、公的な制度ではなく、自由に使え、経歴や活動内容の良し悪しではなく、「人」に対して支援する草の根的な活動です。一年に一人しか採択されないと、毎年心苦しい気持ちになってしまいます。今年は特に、どの方にも妥当性があったので、むしろスカラシップの体制それ自体を問うような選考となりました。
 選考にあたっては、「年齢」「独創性」「経歴」「公平性」を設定し、実行委員内で二度の多数決を行い、最も票を獲得した寺田さんが採択されました。

<寄付者のご紹介>
・竹中香子(ハイドロブラスト )

 実行委員・寄付者一同、寺田 凜さまの活動を支援いたします。
 また、スカラシップでは常時、ご寄付を募っております。活動趣旨にご理解いただける方は、ご寄付を賜れますと幸いです。「ご寄付について

BARACKE 横田宇雄

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